森村桂さんの魅力~人生を小説として描いた人

森村桂さんの魅力~人生を小説として描いた人

『天国にいちばん近い島』を読んでから森村桂という作家に興味がわき、本屋にいけば、その名前を探していました。

今では森村さんの本は全て絶版になってるようですが、私の子供の頃であれば、
まだ森村桂のコーナーがあるほどの人気作家だったのです。

けれど小説といっても、ご自分の人生を赤裸々に描いた作品ばかりでした。

自分と同じ作家だった父親が早くに亡くなり、一家の大黒柱を失って家は一気に貧しい暮らしになり苦労した学生生活。

卒業してもなかなか就職ができず、ようやく一流出版社に入社できたものの、思うような仕事はさせてもらえず、
身体も弱くて結局ついていけずに退社することになったりと苦労が絶えない話ばかりでした。

なのに彼女は不思議な人で、そんな苦労話を暗く悲しく描くのではなく、いうなれば「え~、こんな人もいるんだ、
この人に比べればまだ私なんてマシかも」と明るく励みにできる内容なのでした。

といっても、昨今によくあるように家族崩壊とか殺人につながるようなどうしようもなく暗い話ではなく、
等身大の悩みで丁度良い苦労話なのが、彼女の物語の魅力でした。

しかし、彼女の人生は普通とはいえなくて、学校にしても皇室の方々がお入りになる学習院。

ですから周囲の友達は皆お金持ちぞろい。

その中でぽつんと一人貧乏な彼女という構図で、周りと違う自分が常に辛かったようです。

でも、森村さんは、その辺は強くて、貧乏を逆手にとって真っ黒な服を着込み、少し悪ぶった発言をしてみたり、
気に入らない講師の授業はボイコットするなどして、突っ張ったふりで周りを圧倒させたそうです。

その結果、彼女に憧れる生徒もできて一緒にボイコットしたりして、行動をともにしてくれる友達もできたらしいのです。

お金で叶わない思いをしても、それを逆手にとって自分を有利に見せる、そんな技を持っていながらも内心は孤独である、
と彼女は言いました。

自分の行動に賛美してくれる人がいても、高いバッグや靴や服など見せ付けられるとやはり惨めさは隠せないし、
結局みんなそちらに戻っていく自分はこの学校で異端な存在だと認識していました。

彼女が異端なのは、学校生活の中だけでなく、社会に入ってからもそうでした。

森村さんが憧れ入社した出版会社、そこでも彼女は特別な存在でした。

最初彼女は、会社に入れば人生安心だと信じていました、だから入社できて本当にうれしかったのです。

しかし、彼女はそそっかしく、不器用で、気も利かない、そんなトンでもない新入社員でした。

それは聞いていても、困った人でした。

雑誌に載せるための写真撮影用の高価なカップをいくつも割ったり、ミシンを使えるとうそを言ったため任され、
うまく縫えないのでミシンが悪いと解体したり、身体が弱いのに鉄のように頑丈だとうそを言って入社にこぎつけたのに
一ヶ月に何度も欠勤するそんな問題社員でした。

それでも、何処か憎めない魅力の持ち主の彼女は、他の社員さんから愛着を感じられていつまでもいていい、
とお墨付きをいただける不思議な存在でした。

しかし、本人は失敗するたびに落ち込み、どうして自分は他の人と違うのだろう?と悩んでしまうのです。

普通の人とは違うから魅力があるけれど、本人は普通の人になりたい、これはかなり深刻な悩みです。

森村桂さんの本を読んでみると、明るい魅力的な文体であるのにもかかわらず、
彼女の悩みの深さが感じられて何処か悲しさを感じてしまうのは私だけではないでしょう。

人生を小説として描いた人